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本づくりとメディアリテラシー mell公開研究会2003.6
土屋祐子/2003.7

2003年6月14日(土)、東京大学大学院情報学環でメルプロジェクト6月公開研究会を開催しました。約60名の参加者を前に、昨年度、神田外語大学で実施された「本づくりとメディアリテラシー」プロジェクトを手がけた3氏が発表し、今年度も実施される同プロジェクトの発展に向け、活発な議論が展開されました。

2003年6月メルプロジェクト公開研究会報告

○ 日 時  6月14日(土)午後3時から5時半まで
○ 場 所  東京大学本郷キャンパス
       大学院情報学環暫定建物二階会議室
○ 参加者  約60名
○ テーマ  「本づくりとメディアリテラシー」プロジェクト
○ 発表者  ペク・ソンス(神田外語大学専任講師)
       内澤旬子(イラストルポライター/碧鱗堂製本ワークショップ主宰)
       長谷川一(東京大学大学院学際情報学府博士課程)

○ 発表内容について
このプロジェクトは、授業のなかで半年をかけて学生たちが「自分だけの本」作りに挑戦したもの。製本のノウハウを習うのではなく、まず本にする題材を決め、取材し、それがどのような本の形をとるべきか、使用する素材、綴じる方法、装丁にいたるまで、本そのものの企画・製作を手がけた。「本」というメディアを、生徒一人一人が問い直し、自分とメディアとの関わりを見出して
いく試みだ。完成作品の発表などワークショップ自体の報告は2003年3月にひらかれたメルプロジェクト・シンポジウムで行われており、今回は、プロジェクトの学問的意義や展望について論じる場となった。なお、このワークショップは、本年度は期間を1年に延ばし、再度試みられる。

・発表1 ペク・ソンス講師
最初にペク・ソンス講師から、本作りというプロジェクトを「コミュニケーション演習」という授業でとりあげた理由についての説明があった。ペク講師は、講義や文献からでは自分とメディアとの関わりは学べないと指摘し、「個人の生活の延長に社会があると捉え、その文脈においてメディアを考える視点」を生徒が持つことを意図していたと述べた。学生たちは、「本製作“を”学ぶ」のではなく、「本作り“から”学ぶ」ことになる。本作りを通じて、自分の伝えたいことを意識化し、伝えるための形を与え、それが実社会とどうつながっていくかまでを考えることとなる。

・発表2 内澤旬子さん
次に、授業の中で本製作を指導した内澤旬子さんから、今回のワークショップ開催の経緯についての話があった。イラストレーターとして出発した内澤さんは、文章や出版社からの制約のため、出版物として世に出る自分のイラストと自分が伝えたいものとの間に齟齬を感じるようになる。その葛藤を埋めるべく、自分で文章も書くイラストルポというスタイルを開始、さらに製本工房に出入りする。そこで100年前のフランスの本やコーランの写本、芸術性の高い現代製本の作品など、手の込んだ多様な本の存在を知り、製本の楽しさや広がりを学ぶ。その後、ミニコミの世界とも出会い、内容から製本まで手がける「本作り」を行うようになる。そして出版社を介すことない本作りの可能性を感じ、2001年、製本ワークショップを始めた。なお、ワークショップは、インターネットの画像掲示板 http://mav.nifty.com/ahp/mav.cgi?place=hyakurindo&no=24094 上で、事前に製本メソッドの知識やアイディアなどの意見を交換、一同が介し1日で個性的な本を作り上げた。この製本ワークショップが今回のプロジェクトの土台となる。

・発表3 長谷川一さん
長谷川一さんは、「『本づくり』のメディア論的可能性」と題し、プロジェクトのメディア論やメディア・リテラシー研究における発展性について発表した。長谷川さんによれば、本を「つくる」ということを通じて見出されるのは、「本」が自らのアイデンティティを媒介する“モノ”=メディアという視点である。「本」を“モノ”として捉え直すと、「本」というメディアが、実は多様な形や性質を持ちうること(「可能的様態」)がわかってくる。長谷川さんは、そうした“モノ”としてメディアを捉える視座を、“モノ”としての実体が曖昧な映像メディアに応用することを試みる。一例として、初期の映画は意味や物語性といった内容よりも、「光」を刺激とする存在自体のアトラクションとして人々に受容されたとし、映像にも「光の痕跡」という「モノ性」を見出すことができる、と主張する。さらに、メディアやメディア・リテラシー研究に、現在なされているような、記号論的解読(「記号作用の地平」)やイデオロギー「装置」批判(「制度の地平」)だけでなく、未来へ開かれた可能性の探求として、メディアの「根源」を捉え直す視座(「『根源』の地平」)を提唱した。

・質疑応答:今年度のプロジェクトに向けて
質疑応答では、完成作品と社会とのつながりをどう持たせるか、という点について多くの質問がなされた。1冊だけでなく複数冊作ることで、自分のためでなく「他の人々に伝える」という視点を明確にすること、また、作品を実際に販売する場を設け、他人からの評価を受けるしかけが必要、などの意見が交わされた。

会場には、今年本作りを手がける学生たちの姿もあり、普段見せない(?)神妙な顔で発表を聞いていた。一体どういうものを作ればいいのか不安な向きもあるようだが、昨年同様、唯一無二の作品の完成を楽しみに待ちたい。

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