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学校と共同体 mell シンポジウム2004
土屋祐子/2004.3

メルプロジェクト・シンポジウム2004:メルプロジェクトの波延
「学校と共同体」

登壇者:唐國宏章、酒井俊典、林直哉、山内祐平
 
 このセッションでは学校というフィールドにおいて、メディア・リテラシーに取り組む2人が登壇した。1人は静岡県・総合教育センターの唐國宏章さん。静岡県では、全ての公立学校でメディア・リテラシー教育を行う方針を掲げており、唐國さんは2年間に渡ってパイロット研究に取り組んできた。もう1人は、東京大学学際情報学府修士2年の酒井俊典さん。教師のメディア・リテラシー学習を支援するウェブサイト「MTV(メディア・ティーチャーズ・ビレッジ)」を開発した。

repo_04-1.jpg「MTV」に参加された先生方

●静岡県におけるメディア・リテラシー教育導入の試み

 セッション冒頭、林直哉メルプロジェクトリーダーは、これまでのメディア教育はゲリラ的に行われてきており、静岡県の事例は組織的かつ体系的な取り組みとして注目されると述べた。

 2001年、静岡県教育委員会は、教育計画にメディア・リテラシーの育成について盛り込み、具体的な数値目標として「公立学校における実施率100%」を掲げた。唐國らはその普及・啓発・推進の方策を探るために、2002—03年とパイロット研究を実施、研究協力校での教員研修や授業実践を試みてきた。唐國はこの研究で試みたことを以下3点にまとめた。

(1)メディア・リテラシー教育の学校教育への「収まり方」を示す。
(2)教師への普及・啓発を進めるための教員研修の方向性を探る。
(3)教材開発、授業実践を行い、具体的実施方法の提案ができるようにする。

 (1)では、メディア・リテラシーを学校教育にどう位置付けるかを教員たちに提案した。まず、メディア・リテラシー教育の拠りどころとなるよう、旧郵政省がまとめたメディア・リテラシーの定義を紹介した。また、メディア・リテラシーを学ぶ狙いについて、「メディア社会を生きる力としてのメディア・リテラシーが学校教育における様々な目標を支える力となる」と説明、理解を促した。こうした中、既に開始している情報教育との混同に悩む教員もいた。このため「『情報』と『メディア』の視座の違い」や「コンピューターからコミュニケーションへ」などの説明を加えた。

 (2)に関しては、教員研修では「授業実践」が有効であることが明らかになった。授業を実際に行ってみることで「特別なことではないことが分かった」との声が多く聞かれたという。積み重ねられた実践から、授業への取り入れ方を、唐國は以下の3類型に整理した。

a.メディア・リテラシーを育てることをねらいとした授業
b.メディア・リテラシーを育てる場面を取り込んだ授業
c.メディア・リテラシーを支える力を育てる授業

 (3)では、(2)と平行しつつ、様々な科目で行われる授業実践例を収集した。現在までに約60の事例が集まっており、今後実践事例集としてまとめていく予定でいる。

 唐國はこうした試みにより、学校の授業で実践していくことことを支援する「材料は揃ってきた」とする一方で、カリキュラムと評価など残された課題を挙げた。

 セッション参加者は発表の模様をビデオに撮影するなど熱心に報告に聞き入っていた。また、教師から「理科にはどう導入すればいいか」、放送局から「地元のTV局との連携はないのか」など、質問が次々と寄せられ、メディア・リテラシー教育に対する関心の高さがうかがえた。

 コメンテーターの山内祐平・メルプロジェクトリーダー(東京大学助教授)は、日本では、メディア・リテラシーの外延はいまだわからない状態にあるため、今は評価や制度化する前の段階にあり、「どれがメディア・リテラシーでどれが違う」という合意を教師集団が形成する必要があるのではないかと述べた。また、海外の実践者との交流や、実践者である教員自身が「メディア・リテラシーとはこうだ」という合意を形成していくような対話空間が必要だと指摘し、教員養成というより、関心を持った人々が、ゆるやかに結びついて、語り合う場の重要性を強調した。

 ●教師のメディア・リテラシー学習を支援する学習環境——Media Teachers Village Project(MTV)

repo_04-2.jpgMTV(Media Teachers Village)

 メルプロジェクトのサブプロジェクトとして開発されたMTV(Media Teachers Village)は、「メディア・リテラシーに取り組まれている現場の先生方を支援するためのウェブサイト」(酒井)である。

 今回のプロジェクトではウェブ開発後、メディア・リテラシーに関心を寄せる30名の教師が参加して2ヶ月間運営された。酒井は、このウェブサイトを「異なる専門性を持つ人々の相互作用」を重視して開発したと述べた。メディアの送り手や研究者、実践者に協力を仰ぎ、彼らのインタビューやミニ講義をストリーミング映像、PDF資料で提供した。これらの情報を土台に、掲示板機能を生かして対話を重ねることで、教師が自分達の授業案を発展していくことができるようデザインした。

 酒井はこのウェブサイトを開発した理由として、授業実践が活発になる一方で教師の支援の取り組みが乏しく学習の機会が少ないことを挙げた。また、メディア論的視座の欠如や送り手の実践と教育実践内容の乖離、教師間の対話・共同機会の少なさなど現状の問題にも触れた。

 MTVには2つの機能を設けた。一つは参加した教師たちのプロフィールと各自が作成した2時間の授業案のリストである。これはプロジェクト開始時に掲載された。もう一つは「Step」と呼ばれるインタラクションのためのプラットフォームとなる機能で、ここにメディアの送り手や研究者が参加した。「Step」では「メディア・リテラシーとは何か」「情報の受け手とは」「メディアの送り手とは」「研究者の立場から」「ベテラン実践者の授業」「ディスカッションスペース」という6つのコンテンツが準備され、1〜2週間の間隔で段階的にウェブに公開された。提供される情報とそれを触媒とした掲示板での対話を通じて、最終的に個々の参加者たちが当初提示した授業アイディアをより良いものへとプランを模索するためのしかけをつくり上げた。

 実際に参加した教師たちは、「日ごろ会うことのできないメディアのプロの人や研究者と対話ができた」「ベテランの先生からのアドバイスをもらうことができた」など、インタラクティブ性を高く評価した。また、自宅でも学ぶことができるE-learningの有効性の述べる人もいた。一方で、帰宅後ウェブにアクセスし意見を書き込みことの負担が大きかったという意見も上がった。

 このプロジェクトに“プロデューサー”として参加した山内メルプロジェクトリーダーは、参加者に感謝を述べると共に、こうしたE-learningに誰もが積極的に参加するための「特効薬」は、MTVのようなオンライン対話空間が、静岡で実施されている教員研修に組み込まれ、参加者にとってキャリアとなるようなしくみを作り上げることだと述べた。教育委員会、教師、研究者ら様々なフィールドの担い手が生み出す「助け合いの空間」の意義を語った。

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