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アジアのメディア文化 mell シンポジウム2004
土屋祐子/2004.3

メルプロジェクト・シンポジウム2004:メルプロジェクトの波延
「アジアのメディア文化」

登壇者:坂田邦子、ペク・ソンス、中村豊、石井雅章、木田貴裕、村井明日香、ホセ・ルイス・ラクソン、神田外語大学のみなさん
 
 このセッションでは、「d'CATCH」プロジェクトメンバーから、日本とフィリピンの大学生が共同で取り組んだ映像制作実践についての報告が行われた。「d'CATCH」はMELLのサブプロジェクトで、"deCentralized Asian Transnational Challenges"の略称。「脱中心的アジアの国境を越えた挑戦」をテーマに掲げたプロジェクトである。
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 ●「d'CATCH」の挑戦とは?

 セッション冒頭、プロジェクトメンバーの坂田邦子(東京大学助手)は、d'CATCHプロジェクトの根底には「混成的なアジアのメディアと文化的共生への要求」があると述べた。グローバル化の波が押し寄せる中で、育まれるアジアのメディア文化は、西洋に対する一枚岩としてではなく、多様性を内包したものでなければならない。

 そこで、d'CATCHが問題視するのは「メディアにおける他者表象と視覚の政治性」である。映像メディアは対象を「見られる」ものとして表象する。その「見る—見られる」関係には、歴史的に構造化した権力関係が埋め込まれている。エリートをエリートとして、女性を女性らしく、アジアをアジアとして見せることで、映像表象は、現存するイメージを再生産する装置となる。また、見られる対象自身が、無意識に、他者の(見る側の)眼差しを内に取り込み、自己を表象してしまうこともある。

 このような連鎖を断ち切り多様なメディア文化を育むために、d'CATCHは実践的研究と教育を通じて、表象における権力関係を暴露していくと同時に、自己を自発的、戦略的に見せることを考えていく。メディア表象、文化的多様性を模索する「学術的研究」と、メディア・リテラシーや異文化理解を育む「実践的教育」の両輪を走らせるプロジェクトとなっている。(※図1「d'CATCHの目標」参照)

図1・d'CATCHの目標=坂田邦子
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 ●03年度の実践

 03年度は、神田外語大学とフィリピン・サントトマス大学の学生たちによる共同映像制作が実施された。日本とフィリピンでそれぞれ3グループに分かれ、「食文化」をテーマに「日本とフィリピンの関係性が見えてくる」5分間のビデオクリップを作成、その後異なる国同士の2作品をつなぎ合わせて、15分の番組を3本つくるという実践だ。(※図2「d'CATCHのスキーム」参照)

図2・d'CATCHのスキーム=坂田邦子
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異なる国において同じテーマで作られた映像作品を制作、比較することで、他者表象、異文化表象の「ずれ」を明らかにすること、また、参加した学生たちがその体験を通じて、その「ずれ」に自ら気づくと同時に、互いの文化を理解していくことが目的とされている。

 会場ステージ一面のスクリーンに「Puerta de Cultura」「Astig Kumi」「Champoyaki」3グループの完成作品が流され、メンバーたちから次々と実践の模様が報告された。

 ペク・ソンス神田外語大学講師は、時間に追われ、生徒たちの作成後の振り返りが十分にできなかったことを反省点に挙げた。どのグループも学習目標(※図3「学習デザイン」参照)の第1段階に掲げられた「技術の取得」や、第2段階の「映像理解」「文化交流」「異文化理解」には到達したが、第3段階の「社会におけるメディアの様子を理解」「異文化コミュニケーションに対する理解」「新しいメディアの可能性や展開を考察」「異文化に対する自分の見方・態度を省察」に関しては、まだ今後のフォローアップが必要であると述べた。

図3・学習デザイン=ペク・ソンス
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 日本側の映像制作グループの取りまとめ役を務めたメンバーたちは、生徒たちのフィリピンに対するイメージの変化を指摘した。「なぜフィリピンなのか」という質問が上がり、当初、日本の学生たちにはフィリピンに対する無関心さが目立った。しかし、日本に住むフィリピンの人への取材や、制作過程におけるフィリピン学生とのオンライン会議、顔を合わせての発表会を通じて親交を深め、フィリピンのダンスが日本学生たちの間で流行るようになるなど、フィリピンへの意識は確実に変化した。中には国境を越えた恋の噂も・・・。

 また、フィリピン側と日本側の学生の間で、映像認識の違いが明らかになった。中村豊(東京大学学際情報学府修士1年)は、日本側はドキュメンタリー的な「Simple Story」「Clear Message」というコンセプトのもとで制作したが、フィリピン側は「アメリカ的」「MTV的」な映像をつくったことを指摘、異文化表象を考察する手がかりになると語った。

 d'CATCHは来年度も実践を行っていく。d'CATCHの挑戦は続く。

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